【惑溺】わたしの、ハジメテノヒト。
「でも、せっかく木暮くんがリョウくんにって買ってくれたのに……」
勝手にあたしが飲んじゃ悪い気がするよ……。
そう呟くとリョウくんが心底うんざりしたような大きなため息をつき、あたしの持っていたココアの缶に手を伸ばした。
音をたててプルタブを開けココアに口をつけると、一口ごくんと飲みこんでおもいっきり眉間にシワをよせた。
「あっま……」
不機嫌そうに右目を細め乱暴に手の甲で唇を拭う。
「一口飲んだから、もういいだろ」
そう素っ気なく言うと飲みかけのココアをあたしに渡した。
「え?」
なんであたしに渡すの?
手渡されたココアに戸惑っていると
「いらない?」
綺麗な唇を歪めるように小さく微笑みながらリョウくんはあたしに向かって意地悪に言った。
「………っ」
「いらないなら、捨てるから返せよ」
私の手の中には、さっきリョウくんが口をつけたばかりのココア。
「……いる」
あたしは真っ赤になってうつむきながら小さな声でそう言った。