【惑溺】わたしの、ハジメテノヒト。
「よくそんな甘いの飲めるな」
リョウくんの隣に座ってココアに口をつけたあたしにむかって、うんざりしたように言う。
「だって、甘いの大好きだもん」
缶の飲み口をゆびでなぞりながらそっとリョウくんの唇を盗み見た。
……相変わらず、綺麗な唇。
さっきまであの唇がこのココアを飲んでた。
そう思うだけできゅん、と心臓が音をたてる気がした。
最近、あたしの心臓は
ちょっと変だ。
「で、なんか用?」
乾いた秋の風に黒い髪をゆらしながら、リョウくんがあたしの顔を覗き込む。
「あ、用っていうか、なんていうか……」
風にふかれる自分の髪をおさえながら、こくん、と甘いココアを飲みこんだ。
「木暮くんがね、最近リョウくんがあたしの事を見てるって。あたしが喋ってる声をよく聞いてるっていうからなんでだろうって、気になって……」
恥ずかしくてココアの缶を見ながらそう言うと
「俺が見てる……?」
リョウくんが意外そうな声を出した。