【惑溺】わたしの、ハジメテノヒト。
腑に落ちない表情のリョウくんにあたしは慌てて首を振った。
「いや、あたしが思ったんじゃなくて木暮くんがそう言ったの! ただの木暮くんの勘違いかもしれない!!」
これじゃただの自意識過剰な女みたいだ。
恥ずかしい!
その慌てたあたしの声を聞いてリョウくんが小さく声をもらした。
「あぁ……」
どこか納得したようなリョウくんに、恐る恐る顔を覗き込む。
「わかった。似てるんだ、声が」
リョウくんは大きな手で気だるげに黒い髪をかきあげて、微かにため息をついた。
……声が、似てる?
リョウくんのはじめてみる表情に鼓動がドクドクと早くなる。
誰に、似てるの……?
なんて、その表情を見れば聞くまでもない。
あたしは両手で自分の喉を押さえて動揺が声に出ないようにゆっくりと口を開いた。
「な、なんだぁ……。あたしの声がリョウくんの彼女に似てるんだね。だから、あたしの事を見てたんだね」
無理して出した明るい声はやけにおどけて響いて自分が少しみじめになった。