【惑溺】わたしの、ハジメテノヒト。
「彼女じゃないけど」
「……じゃあ、好きな、ひと?」
恐る恐るそう尋ねると、リョウくんは否定も肯定もせずに微かに唇を歪めた。
……バカみたい。
木暮くんに言われて、一瞬、ほんと一瞬だけど
リョウくんがあたしの事を好きなんじゃないか、なんて期待してた。
あたしと同じように、リョウくんも隣に座るあたしの事を意識してくれてるんじゃないかなんて
バカな事を思ってた。
リョウくんはあたし自身の事なんて、これっぽっちも見てなかったのに。
「……あ、口止め料!!」
そんな情けない感情を吹き飛ばすようにあたしは大声でそう言った。
「……は?」
「リョウくん、あたしまだ口止め料払ってもらってないよ!」
突然元気に言い出したあたしをリョウくんは片方の眉を上げ、怪訝な表情で見る。
「ほら!バーテンダーやってること学校に知られたくないんでしょ? 黙っててあげるかわりに口止め料払ってくれないと!」
明るく言いながら
あたしはなんてバカなんだろうって
思った。
自分から傷を広げてどうするんだ。