【惑溺】わたしの、ハジメテノヒト。
外、寒そうだな……。
風強い冬の始まりの日
放課後
ひとりで教室の窓から外を眺めぼんやりとしていると
「上田、まだいたのか?」
背後から、加藤先生に声をかけられた。
「外、風が強そうだから、帰るのやだなぁって思って」
「もう大分寒くなってきたもんなぁ。俺が車だったら送ってやってもよかったけどな」
ぽん、とあたしの頭に手を置いて優しく言った。
「先生ってどの辺に住んでるんですか?」
「川沿にある古い教員住宅だよ」
へぇ、教員住宅かぁ。
「同じ建物に先生ばっかり住んでると思うと、なんかイヤですね」
「イヤってなんだよ。失礼だな」
思わずあたしがそう言うと先生が苦笑した。
「あ、そうだ。西野見なかったか?」
「リョウくんですか?」
リョウくんの机を見るとカバンがかかったままだった。
まだ校内にいるんだ……。
そう思いながらそっと左の二の腕をなでる。
「まだ学校にいるんなら話したい事あったんだけどな。見てないらないいや」