【惑溺】わたしの、ハジメテノヒト。
「上田!」
放課後、
家に帰ろうとカバンを持って教室を出た時後ろから声をかけられた。
振り返ると、担任の加藤先生があたしの姿を見て追いかけてくるところだった。
「あ、先生」
「いまから帰るところか?」
「はい」
加藤先生はまだ20代後半で、穏やかで面倒見がいいからけっこう人気のある先生らしい。
先生は背の低いあたしを見下ろしながら並んで一緒に歩き出した。
「高校の三年になってから転校なんて大変かなと心配してたけど、上田はもうすっかりクラスになじんだみたいだな」
「いつもみゆきちゃんたちにからかわれてます」
昼休みの大騒ぎを見ていたのか、あたしがそう言うと先生も面白そうに目を細めてうなずいた。
「上田は明るくていつも笑顔だから、自然と人がよってくるんだろうな」
そう言ってほめられると嬉しくなる。
あたしの取り柄なんて明るいことぐらいしかないから。
「勉強でも、受験の事でもなんかあったら言えよ。いつでも相談に乗るから」
そう言って先に歩いて行く後ろ姿に、ああいう人と結婚したら幸せになれるんだろうなぁ、なんて考えてみたりした。