【惑溺】わたしの、ハジメテノヒト。
 
あたしの叫び声に
ふと、彼の腕から力が抜けた。

「に、西野くん……?」

はぁはぁ、と肩で乱れた呼吸を繰り返しながら恐る恐るリョウくんの事を見上げると
顔にかかる黒い髪を気だるげな仕草でかきあげてゆっくりと瞬きをした。

「……悪い、寝ぼけてた」

リョウくんは低い声でそう言って深くため息をつく。


寝ぼけてた……?


乱された服のままベッドに座り込んだあたしは、呆然とリョウくんを見上げた。


「お前の声、紛らわしい……」

あたしに背を向け、リョウくんはひとりごとのように小さくそう言った。


そっか……
ただ、間違ったんだ。

あたしの声がリョウくんの好きな人に似てたから
その人と勘違いしたんだ……。


さっきまでリョウくんに触れられていた自分の身体を
ギュッと両手で抱きしめてうつむいて唇をかんだ。

「悪い……」

もう一度謝罪の言葉を口にしたリョウくんに
あたしはうつむいたままははっと声を出して笑った。

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