【惑溺】わたしの、ハジメテノヒト。
「やっ、大丈夫! こっちこそごめんね」
自分が思っていたよりもずっと明るい声がふたりきりの保健室に響いた。
「あたしが紛らわしい事したからだよね! 寝起きにいきなり話しかけたあたしが悪いよね! 大丈夫だから! ぜんぜん!!」
今にも泣きそうな顔をリョウくんに見られないように下を向いたまま
あたしは必死で元気な声を出す。
そんなあたしにリョウくんは無言で近づいて
ゆっくりとあたしの頭に手を置いた。
長い指があたしの髪の間に差し込まれ
くしゃり、と優しく髪を乱すようにゆっくりと頭をなでた。
うつむいた頭に感じる彼の指先の感触。
心地よく暖かい温もり。
でもそれを感じたのは一瞬で、彼の手はゆっくりとあたしの頭から離れて行った。
そして無言のまま背を向け歩き出したリョウくんの気配を、あたしはうつむいたままで感じていた。
その時
あたしの狭い視界の中
一瞬横切った彼の腕に、茶色いものがある事に気が付いた。