【惑溺】わたしの、ハジメテノヒト。
学校の帰り
なんとなく寄った本屋さんでずらりと並ぶ雑誌の表紙を見ていると
不意に、覚えのある甘いにおいが鼻をかすめた。
「あ……!」
思わず声に出すと、キラキラした表紙の雑誌を立ち読みしていた女の人があたしを見下ろして長い髪をかきあげた。
「あ……」
あたしと同じように目を丸くする細くて綺麗な女の人。
いつか、リョウくんの部屋であった彼女さんだ……。
彼女もあたしの事を思い出したのか、不機嫌そうに眉をひそめ手にしていた雑誌を棚に戻して歩き出そうとした。
「あ、待って!」
思わず呼び止めたあたしをゆっくりと振り返り微かに首を傾げて見下ろす。
その仕草がどことなくリョウくんに似ていて
きっとこの女の人は本当にリョウくんの事が大好きだったんだろうなとぼんやりと思った。
「この前は、ごめんなさい!」
大きな声でそう言って頭を下げると
「……声、でかいから」
彼女は綺麗な顔を意地悪に歪めてそう言って笑った。