【惑溺】わたしの、ハジメテノヒト。
「本当にリョウくんの事、好きだったんですね」
自分の前に置かれたカフェモカのクリームをみながらあたしがそう言うと
「当たり前じゃん」
と彼女が笑った。
「あんな魅力的な男、好きになるなって方が無理だよ」
その言葉にどきんとした。
本当だ、あんな魅力的な人
好きにならずになんていられないよ。
ずるいなぁ、リョウくんは……。
「もう、諦めたけどね」
彼女は二本目の煙草を出しながら静かに言った。
「えっ? どうやって諦めたんですか?」
もし、彼を諦める方法があるならあたしにも教えてほしい……。
「会いに行ったの」
カチリ、と音をたてて彼女の口元で炎が灯る。
「やっぱり好きで、会いたくて、リョウに会いに行ったの」
そして、白く細い煙があがる。
「そしたらリョウの部屋の前に合い鍵もった女がいたの。いかにも真面目そうな、清純そうな女。
驚いちゃった。リョウがあんなタイプの女と付き合うなんて」
鼻で笑いながら長い睫毛を伏せて深く煙草の煙を吸い込んだ。