☆真実の“愛”―ただ、愛してる―3


「だから、ここ、車の中って……」


「……」


窓の外を眺め、俺に背中を向けることで俺の企みを回避しようとした沙耶は、慌てる。


俺がこんなことで止まらないことは、知っているくせに。


「ぶっちゃけ、お前不足だったんだ」


昔なら、こういうときに他の女を抱いていただろうか?


……いや、沙耶を愛していると自覚してから、そんなことは一度もなかった。



「わかったっ、わかったから!」


沙耶が背中が弱いことなんて、百も承知。


だから、こうして、遊んでる。


「放して……っ」


「放すか。……知らなければ良かったなど、2度と言うな」


「っ……そんなところも、聞いて……っっ、ぁ……」


「……バッチリと、一部始終」


喘ぐ沙耶を抱き締めて、ただ、愛する。


それが、普通にできる身分だったら、喧嘩だってしなかった。


と、言うか、そもそも、あれは喧嘩と呼ぶのだろうか。


家のことなのに。


俺たちは、家に振り回されて……いや、俺がか。


ここまで、家を継いだことを後悔したことはないかもしれない。


何でも叶えられる権利を持つ代わり、俺たちの自由は失われてく。


「相馬、っ!ほら、紅葉が……」


俺の気を、必死にそらそうとするこの女を満足にも愛せない。


愛す代償は、この女の身の危険。


守り、愛したいだけなのに。


それが、うまくいかなくて。


「っっ、散って、くね……一生、懸命、生きた……葉が」


息をキレキレに、窓の外を眺める沙耶。


(……全てが、思い通りになることはこの世界に生きている限り、あり得ない)


それでも、前世のように愛する人の命と引き換えでないだけ、マシなのかもしれない。


沙耶の両手に巻かれた、包帯。


沙耶の我慢強さは素晴らしいと思うけど、これは、俺のせいでついた傷で。


「今からは、俺を見ていろ」


沙耶の手の甲に、キスを落とす。

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