☆真実の“愛”―ただ、愛してる―3


「あ……」


伊織は、お金がないという。


頼る親戚がいないからと。


でも、そのために、この家を手放すのか。


唯一、家族を偲べるこの家を。


「私は、売りを出さないことに決めたの。だから、代わりに税とかも支払ってて……伊織には、売るための準備をしているっていっているのだけど」


「……売ればいいよ」


本人が望むなら、それを叶えてやるべきだろう。


それが、伊織の望むことなら……。


「それを、本当に望むならね」


「……今の伊織に望むとか、関係ないわ。あの子は、生きようとしている。前を向いてくれているわ。伊織は、『お金がない』から。それを理由に売りに出そうとしてるでしょう?」


「……」


彼女は、可愛い。


コロコロ表情を変えて、すごく、楽しそうだ。


でも、ふと、遠くを見る姿が儚くて。


放って、おけないと感じた。


泣かせてあげたいと、自分を頼ってほしいと。

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