☆真実の“愛”―ただ、愛してる―3
「ありがとうございます。けど、そうでもないですよ?A組には、有名企業の御坊っちゃま達がいるそうですし……私より頭がいい人なんてたくさんいます。それに貴方も……と、お名前、何でしたっけ?」
その言葉に、ただ、面食らった。
名前を聞かれたのは、初めてだったから。
なるほど。
なかなか新鮮だが、
「“トーマ″」
本名を教える気なんて、更々ない。
その名前を、女は簡単に信じる。
少しだけ、遊んでみたくなったんだ。
彼女がどれだけ、自分を信頼してくれるのか、気になって。
「トーマさんですか。良い名前ですね。では、トーマさん、変なところを見せて申し訳ありませんでした」
けど、葵は怒らなかった。
怒ることも拗ねることもなく、ペコリと頭を下げてきた。
見て、思った。
彼女は弁えている、母さんが好きそうなタイプだと。
深く他人事に頭を突っ込まない。
そこは少し、自分に似ていると思った。