Rainy day
雨のち晴れ

怪しい雲行きだなあ。

朝起きてそう思った。思ったけど。
毎朝リビングで流れているニュースでは、湿気に負けず綺麗に髪の毛を巻いた可愛いお姉さんが『雨が降り出すのは今晩からでしょう。』なんて笑顔で言っていたから。
私はその言葉を信じていたのに。



「騙された……。」

雨が降り出す前に帰ろうと、友達の誘いを断ってまで一目散に学校を出たと言うのに、最寄駅の寂れたロータリーに出た頃には大粒の雨がアスファルトを濡らしていた。

「最悪…。」

一向に晴れそうにないどんより暗い空を見上げて呟いた。

毎日いかにカバンを軽くするかを心がけている私が折り畳み傘を持ってるはずもなく、面倒くさがりの自分が恨めしい。

ママはまだパートの時間だし、お兄もまだまだ仕事中の午後5時すぎ。
きっと駅の売店ではビニール傘が売られているけど、乏しいお小遣いをビニール傘に使うのもなんとなく釈だ。


はあ、とひとつ溜息を吐いて、握りしめていたスマホを濡れないようにカバンの奥底に追いやる。
幸い今日は金曜日で明日は休みだから。
びしょ濡れになってしまったとしても、制服は洗えばいい。そう思って私は雨宿りしていた屋根の中から駆け出した。



ぱしゃぱしゃと私が走るたびに足元でも雨水が跳ねて、2年以上履き続けているローファーはあっという間に水を吸い込んでしまった。

早く家に帰りたい一心で走ってたもんだから、気づかなかったんだ。
足元にあった小さな段差に。



「う、わわっ!!!」

やばい転ぶ!そう思った時には既に遅くて、前に倒れていく自分をスローモーションのように感じた。

ビシャッ!!!

「いっ……たぁ〜…」

危機一髪というか、とっさに両手をついて顔からダイブを防いだ自分を褒めてあげたい。

とは言っても、守れたのは顔と上半身だけで、膝から下は雨でびしょ濡れだし、膝は擦り剥いで赤い血が滲んでいる。


「も、ほんとさいあく……」

まさか17にもなって膝を擦りむく羽目になるとは思ってなかった。

スカートもドロドロだし、お気に入りのピンクのシャツにも転々と泥水が跳ねてしまっている。
そうこうしている間にも雨は降り続いていて、もう全身ずぶ濡れ状態でとてつもなく情けない気持ちになった。



「もうやだぁ…」

俯いたまま、思わず泣き言を零したとき、フッと身体を打つ雨が止んだ。




「大丈夫?」

雨粒の代わりに降ってきた低音。
いつの間にか左側にシックな茶色の革靴が見えていて、おそるおそる私は顔を上げた。



「ハハッ、顔にも泥 ついてるよ。」




綺麗な黒髪をぴっちり後ろに流した眼鏡姿の男性は、私の顔を見ると、堪え切れないとでもいったように笑い声を漏らした。






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