Rainy day
「え………???」
突然の出来事に頭が追いつかなくて、きっと私は今すごく間抜けな顔をしていると思う。
男性は口元に笑みをたたえたまま、呆然と見上げてくるばかりの私に対して、ここだと言うように自分の顔 右の頬辺りを指差す。
その動作にハッとして、慌てて地面につけたままだった手を上げ、辛うじて汚れていない手の甲で右の頬を拭った。
「立てる?」
男性がそう言って手を差し出してくれたけど、流石にドロドロの手で綺麗なままの男性の手を掴むわけにもいかないだろう。
てゆうかこの人、誰??
「た、立てます!大丈夫です!!」
さっきまで途方に暮れていたのも忘れて、私は慌てて立ち上がった。
「そ?…じゃあほら、この傘君にあげるから早く帰りな?」
「…え?いやいやいや!そんなことしたらあなたが濡れちゃうじゃないですか!」
当然のように傘を差し出してくる男性に、慌てて両手をぶんぶんと振った。
「俺はほら、もうそこに車停めてあるから大丈夫。」
男性が指差した先には確かに黒い車が停まっていたけど、問題はそういうことじゃない。
「見ず知らずの人に傘をいただくなんてできないです!! それにほら、もう私びしょ濡れで手遅れだし…!!」
「いいから、人の行為には甘えときなさい。」
男性はそう言うと、有無を言わさず私の手に傘を握らせ
「あ、返さなくていいからね?」
それだけ言い残して、私の返答を待つまでもなく男性は走って車の方へ消えていってしまった。
「あ!ちょっと……!!
……返さなくていいって言われても……。」
あっという間に去ってしまった男性を追いかけるわけにもいかず、私はただ届かない独り言を呟くだけ。
持ち主に置いてきぼりにされた黒くて大きな傘は、見ず知らずの女子高生を庇って大粒の雨を受け止めていた。