Rainy day
バスルームで開いて乾かした大きな黒い傘はきちんと畳んだ状態で今も私の手元にある。
「舞花、今日もその傘持っていくの?」
「うん。だっていつ会えるか分かんないんだもん。」
玄関まで見送りに来たママは右手に握られた傘を見て笑った。
「そう。まぁ、会えたらちゃんとお礼言うのよ。」
「分かってるよ〜! じゃ、行ってきます!」
あの雨の日から1週間、私は毎日傘を持ち歩いていた。
だって名前も連絡先も知らないし、いつまた出会えるかも分からないから、仕方がない。
晴れているのに男物の黒い傘を持ち歩くのは、なんだか恥ずかしいし、面倒だけど。
ビニール傘とかならまだともかく、しっかりとした作りのまだまだ綺麗な傘だから。返さなくていいって言われたけど、返さないとなんだか気が済まないのだ。
お陰で学校の行き帰りの道もぼーっとできず、毎日きょろきょろと辺りを見回しながら歩く羽目にあっている。
「今日も駄目かぁ〜…」
結局今朝も例の男性を見かけることなく学校に着いてしまって、ため息を吐きながらローファーを靴箱にしまう。
「舞花おっはよー」
今日も会えなかったんだねー そう言って声を掛けてきたのは派手な金髪のショートカットがよく似合う柏木真那。
高1からずっと一緒の親友だ。
「おはよ。お陰様で、今日もいろんな人から変な目で見られちゃったよ。」
「今日めっちゃいい天気だしねえ。」
一連の事情を全部知ってる真那はケラケラと笑った。
「も〜人ごとだと思って〜。」
「てゆうかもう諦めたら?返さなくていいって言われたんでしょ?」
最近付き合い悪いぞ〜!なんて言って、真那は腕に絡みついてくる。
「ごめんってば〜。今日は付き合うから!」
「やった!じゃあ今日はカラオケいこ〜!」
さっき登校してきたばっかりなのに、さっさと授業終わんないかなーなんてご機嫌に鼻歌を歌う真那に思わず笑った。