Rainy day
一切遊んでなかった1週間を取り戻すかのように、真那と私は4時間カラオケで騒ぎ倒した。
あの日から、なんだかもんにゃりとスッキリしない気分を抱えてた私は、久しぶりに大声で歌ってちょっとスッキリ。
やっぱり持つべきものは友達である。
夏と言えど20時を回ると流石に日はすっかり落ちてしまっていたけど、ご機嫌な私はフンフンと鼻歌まじりに見慣れた駅前を歩いていた。
右手にはちゃんといつものように黒い傘を握っていたけど、今日はキョロキョロしながら帰る必要はない。
だって、出会った日とは時間帯が全然違うんだもん。
イヤホンを付けて、片手でスマホを弄りながら歩いていたら、前から来た人と不意にぶつかってしまった。
「あ!ごめんなさ…」
慌てて耳からイヤホンを引っこ抜いて顔を上げる。
「いや、大丈夫。」
そう言って何事も無かったかのように横をすり抜けていくスーツ姿の男性。
「ちょ、まって…!」
私は咄嗟にその人の左手を掴んだ。
怪訝そうに振り返る男性の顔を見て、確信した。
「傘!傘のお兄さんですよね!?」
きょとんとする男性に、右手に持っていた傘を突き出す。
「これ!!この傘貸してくれた人ですよね!?」
すると男性はやっと合点がいったようで、
「あぁ、あの時のずっこけ女子高生!」
と、私の無様な姿を思い出したのか口元に手をやってククッと笑った。
「ずっこけって…!失礼な…!」
「事実じゃん。今日はずぶ濡れじゃなかったから気が付かなかったわ。」
「なっ…!」
こ、この人、こないだは優しくて親切な人だと思ったのに!ほんとに同一人物!?
「うそうそ、…返さなくていいって言ってたのにずっと持ち歩いてたの?
律儀だなぁ。ありがとな。」
そういってぽんぽんと二度私の頭を優しく叩くと、スッと傘を手に取った。
じゃあね そう言って立ち去ろうとする男性。
「ま、待って……!!!」
なぜか、体が勝手に、彼を呼び止めてしまっていた。
「ん?」
止まって振り向いてくれた男性に小走りで駆け寄る。
「あの…!えっと、名前!名前教えてください!!」
口をついて出たのはそんな言葉で。
「名前…?なんで?」
男性は訳が分からないとでも言いたげに私を見ていて、穴があったら入りたいと、真剣に思った。
そりゃそうだ…いくらなんでも唐突すぎるし…不自然すぎるでしょ……。
でも、なぜか、自分でもわかんないけど、この人の名前を知りたいと思ってしまったんだ。
「や、えっと…あの…お礼、させてもらいたくって…。あの、や、別に変な意味じゃなくって、ほんとに助かったから…だから…」
「……礼は別にいいよ、気にしないで。
こうやってわざわざ傘も返してもらったしね。」