あなたの心を❤️で満たして
「留衣様、教授の娘のことなんて気にする必要ありませんよ。黒沢家のお嫁さんになったのは留衣様なんですから」


(でも、彼が私を選んだわけではないですよね)


その言葉は言えず、曖昧な笑みだけを浮かべた。
廣瀬さんは私の方がいい…と励ましてくれたが、その言葉を受けても少しも心は浮き立たなかった。




「それではこれで失礼致します」


午後七時、裏口で彼女を見送った。
黒沢さんはまだ帰ってこなくて、廣瀬さんはまた明日叱ってあげます!と息巻いていた。


ドアのロックを掛けて振り向くと、長い廊下には自分の足音だけが響いて不気味。

何とかこの家に馴染もうとしてきたけれど、教授の娘さんの話を聞いたら、やはりそんな努力も全部虚しく感じられてきて………


「お祖父ちゃん……私、あの家に帰りたい……」


呟くと涙が足元に溢れ落ちた。
泣かないと決めてきたけれど、どうにもやはり無理がある。


私は、この家にも黒澤家にも馴染めない。
夫となった黒沢さんは悪い人ではないと思うけれど、何を考え、どうして私を妻にしたかも分からない。


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