あなたの心を❤️で満たして
「……居ないのか」
ドアを開けた彼がボソッと呟く声が聞こえ、ドキン!と大きく胸が弾む。
そのまま二階へと上がって欲しい…と祈っているのに、足音はキッチンへと移動して……
「此処にも居ない…もう寝たのかな…」
囁く声が響いて、ぎゅっと胸が苦しくなる。
こんな風に隠れないといけないなんて、私は彼の何なの?
『縁あって夫婦になったというのに……』
今朝、廣瀬さんが愚痴っていた言葉が思い浮かんで、そうだ、こんな風にウジウジしてたらいけない…と考えた。
私はもう「黒沢留衣」になったんだから、ちゃんと妻として旦那様を出迎えないと。
ぐいっと手の甲で涙の粒を拭い、思いきって立ち上がろうと足に力を入れた。
お帰りなさいと元気よく言うんだ。
ご飯は食べましたか?と明るい声で聞くんだ。
床に手を付いて弾みをつけられるように態勢を整える。黒沢さんが二階へ行ってしまう前に、彼のことを呼び止めようとしたけれどーー
ぐっと指の腹に体重を掛けた瞬間、土曜日に聞いた着信の音楽が流れてきて……
「…はい、教授。どうしました?」