あなたの心を❤️で満たして
話しだす声が聞こえ、折角奮い立たせた気持ちが萎んでいく。再び膝を抱え込むような態勢に戻った私の耳に、黒沢さんの言葉が聞こえてきた。


「……その件はもう少し待って貰えませんか。教授の言いたいことは分かりますけど、まだ向こうの準備が整わなくて。
それに、彼女にも事情を話せていませんし、もう少し時間を頂ければ有り難いんですが……」


何だか込み入った話みたい。
「向こう」とか「彼女」とか、曖昧な表現ばかりでちっとも内容は掴めないが……


(もしかしたら、私と別れ話をしたかってことなんじゃないの?)


廣瀬さんから聞いた話を思い出し、もしかしなくてもそうなのではないか…と思えてしまう。

「向こう」というのは新しく住む場所のことで、「彼女」というのは私のことーー。


(…何よ、そんなに教授の娘さんと結婚したいのなら、さっさと別れ話を切り出せばいいのに)


そう思うと、じっとしていられず立ち上がった。
頭の中では、彼と別れてもいいと思う気持ちが膨らみかけていた。


「……それでは失礼します」


< 112 / 283 >

この作品をシェア

pagetop