あなたの心を❤️で満たして
顔を眺めていた黒沢さんはそう言うと出て行った。
そんな彼の後ろ姿を見送りつつ、彼の方も大丈夫なんだろうかと少しだけ心配になった。



「全く。お坊っちゃまの研究好きにも呆れますわ」


ドアのロックを掛けながら廣瀬さんは納得できない表情を見せた。
私にもっと我儘を仰ればいいのにと無理を言い、流石にそれは出来ませんよ…と笑った。


「でないと、お二人の式も挙げられません」


息巻く廣瀬さんに、どうせ喪中ですから…と話し、式なんていつでもいいですよ…と誤魔化す。

彼が出勤してしまえばいつも通り退屈で、仕様がないから家中の窓を磨きながら歩いて回る。
それも午前中しただけで結構な重労働で、午後はもう何もしたくないと思う程草臥れている。



「留衣様、少しだけ出掛けてきますけど、お一人でいらしても大丈夫ですか?」


リビングのソファで寝そべっていると、廣瀬さんはそう言いながら入ってきた。


「平気ですよ。どうぞ気を付けて行ってらっしゃい」


上半身を起こして手を振ると、廣瀬さんは直ぐに戻りますから…と頭を下げた。
閉まるドアを見ながらふぅ…と息を吐き、再びコロンと横になる。


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