あなたの心を❤️で満たして
ぎゅっと唇を結んで手に力を入れて書いてやり、これを最後にもう二度と絶対に書かないと覚悟を決めた。


「では次に本籍地を」


色々と厄介だ。
いい加減手が疲れる…と思いつつも、住んでいた家の住所を書き終えた。


「次はどちらの姓を名乗るかですが」


「そんなの黒沢でいいだろう。ペンを貸してくれよ。後は俺が書く」


筆の進まない私に呆れていたのか、右側から手が伸びてくる。
その大きな掌を見つめ、徐ろに万年筆を手渡した。


彼の指先は、黒い万年筆を掴むときゅっと握って逃げていく。目の前を通り過ぎていく用紙の行方を確かめてから、ちらっとその横顔を窺った。


……まだ正面からまともに見てもないけど美形だ。
学生時代にもお目にかかったことが無いようなイケメン。


(こんな人が私と結婚?まさかとは思うけど詐欺じゃないよね?)


目つきが怪しい…と思っていたのか、側に居る三上さんがプッと吹き出しそうになった。


「……?」


振り向くと、失敬…と言いながら笑いを噛み締め、その間に相手は自分の署名を済ませて印を押した。

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