あなたの心を❤️で満たして
空が白んでくるまで悶々と考え込んでいた。
そのまま重い身体を引きずってベッドを降り、シャワーを浴びてからノロノロと歩いてキッチンへ向かう。


広過ぎるアイランドキッチンの調理台に立ち、毎朝鰹節を削っていた祖母のことを思いながら味噌汁を作りだした時、やっぱり自分はこの家には馴染めないと思う気持ちが膨らんでいった。


私は黒沢さんのことをちゃんと人間らしい感情を持っている人だと勘違いしていた。

朝が苦手なのに自分の作った朝食だけは食べてくれるのを見て、しかも「美味しい」と言ってくれて、食べ終わるときちんと手も合わせてくれる。

代わり映えしない味噌汁を好きだと言ってくれて、それが嬉しくて堪らないから何処か有頂天になっていた……。



鍋の中に賽の目に切った豆腐を入れながら、やはりこの家を出ようと思う気持ちが拭いきれない。
何処へも行く宛のない私だけれど、幸いなことにあのお金だけは手元にある。


愛しい我が家を売却したお金。
あれを使えば暫くは収入がなくても暮らしていける筈。

安いアパートでもいいから借りて、贅沢をせず、慎ましやかに暮らしていけばいいのだ。

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