あなたの心を❤️で満たして
勿論そこでは一人だし、帰ってくる人もおらず、話をすることも挨拶を交わすこともない。

自分が作った味噌汁を飲むのも自分だけで、「美味い」も「甘い」も感想なんて誰からも貰えない。


「…それでもいいんだ。こんな要塞みたいな屋敷でロボットみたいな人と一緒に暮らすよりは」


呟きながら悔し涙みたいなものが目に浮かび、視界が潤んで鍋の中が見えにくくなる。


(私がこの家を勝手に出たら、廣瀬さんは悲しむのかな…)


そう思うと彼女だけでもいいから、そうであって欲しいと願う。

あの人がいる間は無機質な家の中も賑やかに感じられて、たまに聞かされる黒沢さんのことも少しは人間らしく思えていた。


……だけど、実際の彼はそうじゃないんだ。
彼が求めているのは、妻としての契約を果たし、体だけの繋がりが持てる自分。

「花菱留衣」でも「黒沢留衣」でもどちらでもきっといい。だから、苗字で呼び続けるのを訂正するのも止めたんだ。



「はあー……」


朝から何度目だと思うような溜息を吐き出し、炊き上がったご飯でおにぎりを作る。

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