あなたの心を❤️で満たして
呼び止めようと声を出したけれど、彼は振り向くこともなく出て行った。



「………あれが私の旦那様?」


一人残された控え室で呆然と立ち竦む。
一度も目が合わなかったな…と、暫く経ってから気が付いたーーー。




ついさっき入籍を済ませた旦那様の名前は、黒沢厚志(くろさわ あつし)さんと言う。

現在三十二歳で、某薬科大を卒業して大学院に入った後、教授の補佐として大学院に残り、現在も研究を続けていると三上さんからは簡単に説明を受けて知っていたけどーー。


(それにしては、このお披露目式に来てる人達との接点が掴めないと言うか。全員きちんとしたスーツ姿で、どう見ても何処かのオフィスの重役っぽい雰囲気の人ばかりなんだけど……)


働いたこともないからよくは知らない。けれど、どう見てもそんな風にしか見えない面々。明らかに大学の関係者ではないよね、と金屏風の前に座ったまま考えていた。


そもそもこのお披露目式は誰の為に行っているのか。
それすらもよく知らずにこの席に座っている。


着てきた喪服はあっという間に薄紅色の振袖に着替えさせられ、ポニーテールは緩く巻かれてアップにされて。


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