あなたの心を❤️で満たして
「黒沢さんのお宅ですかな」


何となく聞き覚えのある男性の声と言い方に、はい……そうですけど、と返事をしながら考えていた。


(誰だったっけ。つい最近聞いたような気がするんだけど……)


「いきなりお電話を差し上げて申し訳ない。薬科大の和田と申しますが」


「わ、和田教授ですか!?」


驚いて声を上げると、向こうは少し笑った様な感じで返事した。


「おお、奥様ですか。先日はどうも、わざわざご足労願ってありがとうございました」


グレーのヘアスタイルをした人を思い浮かべつつ、いいえ…と答える。


どうしてこんな時間に教授が電話を?
もしかして、黒沢さんに頼まれたとか?


一瞬そう思ったけれど、そんな気の効いたことをする人ではない筈。
だったらどうして。用件は何だろう。


「あの…黒沢はまだ戻りませんが…」


ご存知だと思うけれど、一応のつもりで教える。
すると、教授は勿論分かっているといった雰囲気で。


「…いや、彼に用事ではないんですよ。奥様にお話しておきたい事がありましてな」


「私に?」


受話器を手にしたまま向こう側にいる人に問いかける。

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