あなたの心を❤️で満たして
黒い折りたたみ椅子を指差す蒲池さんの声に唖然としつつ、等間隔に並んだ椅子の上に背の高い彼が寝転ぶ姿を想像した。


「……ですが、このニ、三日はあまり休んでいないご様子でした」


心配そうに話す蒲池さんを見つめ、この人はどうしてそんなことを知っているのだろう…と思う。


まさかとは思うけれど、彼女もこの研究所に泊まり込んで込んでいる?
黒沢さんと同じ部屋でこもって仕事をしているから彼の様子が分かるの?


そう思うと、紙きれだけの妻という立場にある自分よりも、長い時間一緒にいれる彼女に対し、少しイラッときてしまう。


「お待ち下さいね。主任に声をかけてきますので」


蒲池さんは磨りガラスの付いたドアをノックして入った。

私はテーブルと椅子だけがある部屋にとり残され、その狭い空間に置いてある物を見ていると、何とも自分が頼りのない人間に感じられてしまって……。

逃げ出したくなる気持ちを抑えつつ、なんとか其処に留まっていると、カチャ…と音がしてドアが開き、外から勢いよく彼が現れた。



「留衣…!」



一瞬、その風貌を見て別人だと思った。

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