あなたの心を❤️で満たして
彼の1メートルくらい手前まで来た父は、立ち止まって目を向ける。
偉そうな態度で見下しているけれど、どう見ても胡散臭そうに見えるのは父の方だ。


「私は黒沢と言います。彼女の夫ですが」


黒沢さんは声色も変えず言い返した。
夫と名乗る彼を見て、胸がドキッと鳴ってしまった。


「夫?…留衣、お前いつ結婚したんだ!」


十年近く顔も見せなかった人は驚きも隠せずに訊いてくる。
何も答えずにいると頭にきたように近寄り、いつだ!?と声を荒げる。


(別にいつだっていいでしょ!貴方には関係のないことじゃない!)


口にもしないで思った。
私の様子が只ならないと感じたのか、黒沢さんが間に割り込んできた。


「…あの、誰なんですか!?」


そう言うと私を後ろに隠す。
か弱い姫を守る騎士のように父の前に立ち塞がった。


「俺は留衣の父親だ!」


暴君みたいに言い放たれる言葉に目眩を感じた。
どの口がそれを言わせるんだ…と言い返したくなる。


「父親?貴方が?」


黒沢さんはそう言うと少し黙った。
呆然と顔を見つめ、何かを思っているような風だった。


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