あなたの心を❤️で満たして
「いい。まだ…会いたくない…」


恋しいと思う気持ちはある。
捨てられたんじゃないと知って、良かったとは思っている。


だけど、だったらどうして会いに来てくれなかったのだろう。
一緒に暮らそうと言って、迎えに来てくれても良かったのに……。


手にした手紙はやっぱり読めずに箱の中に戻した。
読めば嫌でも泣けてきそうで、今日はもう泣きたくないと思ったから。



「持って帰る?」


黒沢さんの言葉に首を横に振る。


「もっと気持ちの整理がついてからでいい」


父のことも母のことも、私にとっては知らない事だらけだった。
如何に祖父母に守られて、大事に思われてきたかを知ったーー。



私はいつも祖母が身に付けていた柘植の櫛と、祖父が大切にしていたパイプを見つけて持ち帰ることにした。

二人が結婚した頃の写真も見つけ、要塞屋敷に戻ったら、これを自分の部屋へ飾ろうと決めた。



コンテナを出る時、黒沢さんにありがとう…とお礼を言った。

二度と祖父母との思い出にも浸れないかもしれないと覚悟していたから嬉しかった。


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