あなたの心を❤️で満たして
「また整理しに来よう。家の改修が済んだら持って行きたい物もあるだろ?」


「うん…」


祖母の桐ダンスは持って行きたい。
長い時間、あの家にあった物だと聞かされているから。


行こう…と言って、背中を向けて歩き出す黒沢さんの後を追いながら、ふ…と部屋の窓辺から見えていた桜の木を思い出した。


毎年、満開の頃になると窓辺に花弁が舞い込んできた。
チラチラ…と。そして、時には風に吹き飛ばされて多量に。


(この人を見てると、あの大きな幹を思い出すな…)


ロボットみたいに見えていたのは、私の心が冷えきっていたからだ。

黒沢さんは機械みたいに冷たい人間なんかじゃなくて、本当は気持ちが優しくて、単純に研究が好きなだけの人なのかもしれない。


(それに、意外にもグルメだ…)


毎朝の味噌汁を寝惚けながらも味わっている。
微妙な味の差を感じる程、味覚だって鋭い。
コーヒーの淹れ方にこだわっているのも、きっとその所為だろう。


< 246 / 283 >

この作品をシェア

pagetop