あなたの心を❤️で満たして
キョトンとしたままどういう意味かと問いたくなっていると、受け皿にカップを戻した彼が言い始めた。


「俺が留衣の話を聞いたのは、今から六年くらい前のことなんだ。

最初は許嫁なんて古くて面倒くさい習慣だと思って呆れてたんだけど、白沢薬品の副社長の息子だから誰とでも結婚出来ると思うなと父親に言われて、仕様がないな…と言うか、そもそもその手の願望もなかったから、別に誰でもいいかという感じで諦めた」


「諦め?」


なんだか傷つく。


「相手の身元引き受け人が亡くなるまでは婚姻もしなくてもいいと言われたし、その間は自由に研究も出来ると思ったからまあ妥協もできたし」


「妥協?」


ますます傷つく。
つまり、この人は諦めて妥協したから結婚したんだ。


(そりゃ私も病床の身だったお祖母ちゃんから聞いて、諦める様なところはあったけど……)


明け透けなさ過ぎる。
もう少しオブラートに包んだ言い方をして欲しい。


呆然と彼を見ていたからだろう。
厚志さんはハッとして、いや、あのね…と言い訳のように続けた。


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