あなたの心を❤️で満たして
実際にそういう場面になったことがなくて、今まで実感はしなかったけれど。


今は初めての相手は厚志さんならいいなと思っている。
彼が相手なら本望だし、きっと大事に扱ってくれるだろうと思うから。
だけど……


(キスだけ終わりか…)


そう思うと無性に切ない。
自分は経験もないのに求めるなんて、やっぱりどうかしているのかな。


(ヤダな、もう……)


恥ずかしくなってきてしまった。
今のうちに逃げ出した方が正解かもーー。


右手をドアレバーへ向けて伸ばした。
シルバーの取っ手を掴んでぐっと下ろせばドアが開く……。


(握ればいいんだ)


ぎゅっと握っていた手を開いた。
レバーの上に伸ばしたら、さっ…とその手を掬われた。



「何処へ行くんだ」


いつの間に側へ来たのか、厚志さんがそう言って見下ろしてくる。その眼差しが鋭くてドキッと胸が弾んだ。


「え…あの…」


トイレに…と言うのも白々しい。
だって、この部屋にはきっとトイレもバスルームもある筈だから。


「…で、電話の邪魔をしてもいけないかなと思って……」


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