あなたの心を❤️で満たして
「私はこの家が大好きだったのに……!」
部屋のカーテンに凭れ、この二十年以上の日々を振り返った。
初めて訪れた日のことは覚えていない。
けれど、木造で出来た洋風の二階屋は、子供の頃からの自慢だった。
友達の家にはない屋根裏部屋があり、玄関の上では風見鶏がくるくると回り、床材も壁材も全てが木で張り巡らされてある。
古いけれど、その朽ちている感じも大好きで、ずっと手入れをしながら住み続けようと決めていた。
だけど、それももう出来ない。
私は明日の朝には此処を離れ、身も知らない人と暮らさなければいけない。
嫁ぎ先には涙を持って行かない。
それは亡き祖母と約束した。
『留衣……誰よりも幸せにおなり……』
春風に揺れるカーテンを握りしめながら、祖母の最後の言葉を思い返して涙した。
私の涙を知るものは、この家の桜の木しかないーーー。