あなたの心を❤️で満たして
「まあ、ちゃんとお出汁を取ったんですね」


素早く鍋に近付くと蓋を取って息を吸い込んでいる。


「良い出来栄えですこと。私、近頃の若い方は既製品のお出汁しか使わないのかと思っておりました」


「祖母がお味噌汁には拘っていたものだから。毎朝、鰹節を削るのを見てましたし、お味噌も自分で作っていました」


「まあ、素晴らしいですわ。お味噌まで手作りなんて」


廣瀬さんはちょっとお味見を…と言い、私が使った小皿の中に味噌汁をよそって啜る。
口の中でゆっくり味わってからごくんと喉へ通し、うん、と大きく頷いた。


「最高です。是非お坊っちゃまにも飲ませてあげて下さい」


「えっ!…黒沢さん飲みますか?」


昨日はとても食事が出来るような雰囲気ではなかった。
眠気の方が強過ぎて、食べるよりも寝たいと言っていた。


「あの方は元来、朝は和食派なんです。どんなに食欲がなくても味噌汁だけは必ず飲まれます」



私が作ったと聞いたら驚かれますよ、と笑った。
起きて来るまで内緒にしておきましょうと言い、自分は玄関先を掃いて来ますと出て行く。


< 74 / 283 >

この作品をシェア

pagetop