あなたの心を❤️で満たして
今更のように訊ねると彼はそんなの行きながらでも話せると言い、シートベルトを締めてエンジンを吹かした。

ハンドルを切りながらガレージを出て、一気に住宅街の坂を下って行く。


飲むのも食べるのも早い人は運転も何処か荒っぽい。
私はヒヤヒヤしながら前を見て、誰も道に飛び込んで来ないで…と願った。



四十分後、車は有名な薬科大の駐車場に着いた。
降りて…と言う彼に従い、シートベルトを外してドアを開けると彼が外で待ち受けていて。


「君も一緒に研究室へおいで。教授や仲間に紹介しておきたい」


そう言い渡すと私の意見など聞かずに歩き始める。
大学のキャンパスには土曜日にも関わらず学生が多くいて、その誰もが白衣を着ている。

小脇に抱えた本は分厚そうで、家にいる時の彼を思わせた。



此処に来るまでの間、黒沢さんは自分のことについて少し語ってくれた。

大学院を卒業後、尊敬する教授の研究室に残り薬品研究を続けていたけれど、お父様の勧めで白沢薬品の役員をしなければならなくなり、会社の研究所へ籍を移すことになった。

新薬の開発はそこでしていて、毎日通ってはいるのだそうだ。


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