月下花火
 だがそれなりの場数を踏んだ者なら、手の見えない相手に不用意に踏み込むことはしない。
 現に荒木は俺の手を読もうと、腰を落として慎重に間合いを測る。

 さぁっと雲が流れ、月明かりを隠した。
 その刹那。

 荒木が動いた。
 鞘走る音と共に、銀の閃光が腰から放たれる。

 荒木の刀が眼前に迫る直前、俺は思い切り地に沈んだ。
 その勢いのまま、肩に担いだ刀を大きく回して袈裟に斬り下げる。

 月が再び顔を覗かせ、荒木の刀は俺の頭上を掠めた。
 次の瞬間、無数の星が光り、一気に降ってくる。

 宙にあったときは月明かりで煌めいていた星々は、地に落ちると共に、びちゃびちゃと耳障りな音を発して掻き消えた。
 最後に、どしゃ、と二つになった荒木の身体が、星々が作った黒い水たまりに頽れる。

 荒木の身体から迸り出た黒い水が辺りに広がり、俺の足元に月を映した。


 まるで空に浮いているようだな。


 頭上にも足元にも月がある。
 なかなか風情があるの、と空を見上げ、俺は血振りをくれた刀を納刀すると、静かに踵を返した。
< 3 / 6 >

この作品をシェア

pagetop