月下花火
 ちゃぽん、と魚が跳ねた。
 月に誘われて家を出てみたのだ。

 狭い長屋は風通しも悪く蒸し暑い。
 外のほうが、もう涼しい、と月を見ながらぶらぶら歩いて川べりに出た。

 川は時折きらきらと輝きながら、ゆっくりと流れている。
 風の音しか聞こえない、静かな夜だ。

 私は土手の上にしゃがみ込み、川に映る月を見つめた。
 虫の声も聞こえない、怖いほどの静寂に、自分の存在もあやふやになる。

 そのとき、不意に空気が切り裂かれた。
 何か音がしたわけでもない。
 だが静寂が破られた気がした。
 大きく空気が動いた、というのだろうか。

 顔を上げた私は、川向うに無数の星が瞬くのを見た。
 月の光を受けて赤くきらきらと光り、一瞬後には掻き消える、不思議な星々。


 何と美しい光景なのか。


 何かが倒れるような音と共に、辺りは再び静寂に包まれた。
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