第一王子に、転生令嬢のハーブティーを


 令嬢としての立ち振る舞いは身につけていながらも、いつもどこか自由で楽しそうな彼女。

 だから、今日のアリシアの声を聞いたミハイルは、思わず眉をひそめた。



「あの……何でも良いので、疲労回復効果のあるハーブティーを頂けませんか?」




 その声には、かなりの疲れが滲み出ていた。

 思えば、浮かべている笑顔も、いつもより弱々しい気がする。



「ローズヒップティーがありますが」


「じゃあそれを」



 答えたアリシアは、大きく息を吐きながらテーブルに突っ伏した。



「はあ、ダンスが上達するハーブティーとかないかしら……」


「ダンス?」



 奇妙なことを言い出すアリシアに、ミハイルはようやく彼女が疲れている理由に思い当たった。



「ああ……もしかして夜会のためにダンスの練習をなさっているのですか?」



 一週間後に、王宮で催される夜会がある。確か、それが第一王子の婚約者を正式にお披露目する場でもあったはずだ。

 順当にいけば、アリシアは未来の王妃。権力者各方面に良い印象を与えておきたいところ。その夜会は丁度よい機会である。


 だが、見た限りでは、その準備は順調にいっているとは言い難いように思える。



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