第一王子に、転生令嬢のハーブティーを


 この言い方をすれば断られないのを知っている。というより、いつも交わされる会話パターンなので、ノアが一度遠慮するのも形式的なものだろう。

 案の定彼女は、「いつも申し訳ありません」と言ってティーカップを受け取った。



 ミハイルはローズヒップティーを飲むノアの反応を横目でうかがう。

 ハーブティーにはほぼ嫌いなものがないアリシアと違い、ノアは時々口に合わないものもあるらしい。

 無理して飲む必要はないが、さすがに主人の前でそのようなことを言い出しづらいのか、我慢して飲み干している様子を何度か目撃した。


 今回のものは口に合っていたらしく、表情は明るいままだった。



(良かった)



 アリシアという少し変わった令嬢に仕える彼女は、苦労が絶えないだろう。そんなノアに対し、ミハイルはどこかシンパシーを感じている。

 あまりノアとゆっくり話す機会はないが、アリシアのことで苦労している話なんかを聞いてみれば盛り上がりそうである。



「ふう。ミハイルさんのハーブティーを飲んだら少し元気が出たかも」



 ミハイルがノアに気を取られていた間に、アリシアはティーカップの中身を全て飲み干したらしく、満足気に言った。

 いつもの明るさが少しだけ戻ったように思える。


< 116 / 270 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop