第一王子に、転生令嬢のハーブティーを


 そうはいっても、軽く周囲を見渡してみるが気軽に話しかけることができるような知り合いは見当たらない。いや、そもそもそんな知り合いなどほぼいないが。



(あ、先にまずは殿下に挨拶しなくちゃ)



 この国の王は、数年前病に倒れて以来、職務の多くから手を引いており、このような王宮主催の夜会にも姿を現さない。王妃がいる場合もあるが、今日は不参加らしいので、主催者側の代表はイルヴィスだ。


 しばらく視線をキョロキョロとさまよわせて、彼の姿を探す。ようやく見つけるも、他の参加者に話しかけられており、行くのが躊躇(ためら)われる。



(ま、後でいいか)



 アリシアがちょうどそう思ったとき、ドンと誰かに押された。



「うわっ」



 割と強い力だったので一瞬ふらついた。が、この二週間ダンスの練習で鍛えられたのか、上手くバランスをとり、公衆の面前で思い切り転んでしまうという失態は避けられた。


 いったい誰だ。振り返るとそこには、嘲笑うかのような笑みを口元に貼り付けた、アリシアと同じくらいの歳の女が立っていた。

 目鼻立ちはかなり整っているが派手な印象。自分でも容姿には自信があるというのが、身に付けた豪華なドレスやアクセサリーからも伝わってくる。


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