第一王子に、転生令嬢のハーブティーを
「あの、サラ様?」
だいぶ歩いたのではないだろうか。城内の造りも大まかには知っているが、夜だからか雰囲気がいつもと違う。そのせいかアリシアには現在地がわからない。
ようやくサラが足を止めた。ドアの開いた部屋の前だ。
「ここは?」
返事はない。
ランプで照らして確認しようとした瞬間、ドアの開いた部屋の中へ向かって、背中を強い力で押された。
突然すぎてバランスを立て直す間もない。
「わっ」
アリシアは派手な音を立てて転んだ。痛みと床の冷たさがジンジンと伝わってくる。
何とか力を出して振り返ると、嘲笑の混じった表情を浮かべるサラが一瞬見えた。それと同時に……
──ガチャン
無情な音と共に扉が閉まった。
「え?嘘……」
痛む体を何とか起こして、ドアノブに手をかける。しかし、押しても引いてもガチャガチャと虚しい音がするばかりで開かない。
「サラ様?サラ様?開けてください!」
返事はない。認めたくないが、一人この部屋に閉じ込められてしまったらしい。
(嘘でしょ)
力が抜け、アリシアはその場に座り込んだ。
外から雨の音が聞こえる。ずいぶんと強くなってきているようだった。