第一王子に、転生令嬢のハーブティーを


 ガチャン、と雷鳴とは別の大きな音が部屋に響いた。アリシアの手元にあったカップが落下し、割れてしまった音だった。


 しかし今のアリシアに、割れてしまったカップを拾うような余裕はない。

 先ほどよりも強く耳をふさぎ、その場にうずくまる。怖くて怖くてたまらない。


 何故わたしがこんな目に……。漫画に登場する悪役令嬢“アリシア”は第一王子の婚約者になっても、他の候補者も納得してしまうくらいの、優秀で美しく毅然とした女だった。

 それがこのザマは何だ。嫌がらせを受けて、雷に恐怖して何もできない。これでは悪役令嬢ではなく、安っぽいヒロインだ。

 そう思うと涙があふれそうになる。



(誰か……助けて)



 心の中で強く願った瞬間、固く閉ざされびくともしなかった扉が勢いよく開いた。



< 139 / 270 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop