第一王子に、転生令嬢のハーブティーを
ガチャン、と雷鳴とは別の大きな音が部屋に響いた。アリシアの手元にあったカップが落下し、割れてしまった音だった。
しかし今のアリシアに、割れてしまったカップを拾うような余裕はない。
先ほどよりも強く耳をふさぎ、その場にうずくまる。怖くて怖くてたまらない。
何故わたしがこんな目に……。漫画に登場する悪役令嬢“アリシア”は第一王子の婚約者になっても、他の候補者も納得してしまうくらいの、優秀で美しく毅然とした女だった。
それがこのザマは何だ。嫌がらせを受けて、雷に恐怖して何もできない。これでは悪役令嬢ではなく、安っぽいヒロインだ。
そう思うと涙があふれそうになる。
(誰か……助けて)
心の中で強く願った瞬間、固く閉ざされびくともしなかった扉が勢いよく開いた。