第一王子に、転生令嬢のハーブティーを



(どこだ、どこにいる)



 焦りと苛立ちが募る。

 イルヴィスは、走ったせいで乱れた呼吸を落ち着けようと2、3回深呼吸する。



 彼女とて子どもではない。会場にいることに疲れてどこかで休んでいるのかもしれない。

 そんな考えも頭をかすめたが、嫌な予感が消えない。


 空模様はますます悪化してきているようだ。降りしきる雨音の中に、雷鳴も混じっている。そのうちに一際大きな雷鳴が(とどろ)いた。



(雷、か)



 外を見て唇を噛み締める。



「兄上……!」



 イルヴィスに呼びかける声と足音が近づいてきた。

 振り返ると、早足で歩くロベルトが派手な装いの令嬢の手を引いていた。



「ロベルトか。それに……ローラン公爵令嬢」



 サラは手を引くロベルトのことを後ろからムッとしたように睨んでいたが、イルヴィスの顔が見えるようになると、わかりやすく表情を強ばらせた。



「アリシア嬢の居場所なら彼女が詳しいだろうと思い連れてきました」


「何の話ですの!わたくしは知りませんわ!」



 サラは潤んだ目でイルヴィスを見上げる。ロベルトはそんなサラを見て眉をひそめ、彼女の腕を掴む手に力を入れた。


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