第一王子に、転生令嬢のハーブティーを



 涙は止まらないけど、震えは止まった。

 イルヴィスの腕の中で、アリシアは不安だった気持ちが、氷が溶けるようにじわじわとなくなっていくのを感じた。



 ──そして、そうしているうちに、ふと冷静になった。ずいぶんと長い間、アリシアはイルヴィスに抱きしめられている。



「で、殿下!もう大丈夫ですので、その手を……」


「そうか」



 イルヴィスは何故だか一瞬残念そうな顔をして、抱きしめていた腕を解いた。



「あの、大変見苦しいところをお見せしました」


「……雷は今でも苦手なのか?」


「はい、恥ずかしながら……ん?『今でも』」



 まるで昔から苦手だったと知っているような言い方だ。

 何か引っかかりを覚えたが、イルヴィスがここにいることの意味に気が付きハッとする。



「そ、そうだ!夜会、もしかしてもう終わってしまいましたか?」


「ああ。外は荒れているし、予定より早いが終わらせた」


「そんなっ……結局わたし何もできずに……」


「何を言う。貴女は上手くやっていただろう」



 イルヴィスはそう言うと、ポンポンとアリシアの頭を撫でた。



(上手く、できてた?)



 お世辞かもしれない。だが、イルヴィスにそう言ってもらえたのは嬉しい。


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