第一王子に、転生令嬢のハーブティーを


 呼吸をするように女性のことを褒めるロベルトの言葉は軽く流し、アリシアは改めてその手をとった。

 色が白く細いのに、どこかしっかりとした手は、イルヴィスと少し似ている。



「音楽なしでとおっしゃいましたけど、少し寂しくないですか?」



 というか踊りにくそうだ。アリシアが呟くと、イルヴィスが何か思い立ったように立ち上がった。

 そして部屋の隅の方にあったピアノの鍵盤蓋を開いた。そのピアノはすっかりオブジェと化していたので、存在に気が付かなかった。


 イルヴィスは流れるような動きで、鍵盤に指を走らせると振り返って言った。



「長らく使っていないピアノだが、調律は狂っていない。そう難しい演奏でなくて良いのなら私が弾こう」


「イルヴィス殿下、ピアノ弾けたんですか」


「特別上手くはないがな」



 それが謙遜だというのはすぐにわかった。


 イルヴィスは滑らかに、しかし力強く鍵盤を叩く。紡ぎ出される音は、とても素人が趣味で練習したというレベルのものではない。



「すごい……」



 思わず息をのむ。流れる美しいメロディーは、いつまででも聞いていられそうだ。

 真剣な表情でピアノに向かうイルヴィスは、いつもとどこか雰囲気が異なり、それでいていつも通り美しい。


< 159 / 270 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop