第一王子に、転生令嬢のハーブティーを
呼吸をするように女性のことを褒めるロベルトの言葉は軽く流し、アリシアは改めてその手をとった。
色が白く細いのに、どこかしっかりとした手は、イルヴィスと少し似ている。
「音楽なしでとおっしゃいましたけど、少し寂しくないですか?」
というか踊りにくそうだ。アリシアが呟くと、イルヴィスが何か思い立ったように立ち上がった。
そして部屋の隅の方にあったピアノの鍵盤蓋を開いた。そのピアノはすっかりオブジェと化していたので、存在に気が付かなかった。
イルヴィスは流れるような動きで、鍵盤に指を走らせると振り返って言った。
「長らく使っていないピアノだが、調律は狂っていない。そう難しい演奏でなくて良いのなら私が弾こう」
「イルヴィス殿下、ピアノ弾けたんですか」
「特別上手くはないがな」
それが謙遜だというのはすぐにわかった。
イルヴィスは滑らかに、しかし力強く鍵盤を叩く。紡ぎ出される音は、とても素人が趣味で練習したというレベルのものではない。
「すごい……」
思わず息をのむ。流れる美しいメロディーは、いつまででも聞いていられそうだ。
真剣な表情でピアノに向かうイルヴィスは、いつもとどこか雰囲気が異なり、それでいていつも通り美しい。