第一王子に、転生令嬢のハーブティーを
「アリシア嬢、兄上の素晴らしい演奏に聞き惚れるのはいいが、できれば、俺と踊るという当初の目的を忘れないでもらいたいな」
「あっ」
ロベルトが苦笑気味にそう言い出すまで、すっかり聞き入ってしまっていた。アリシアは誤魔化すように微笑み、ロベルトの方へ体を向ける。
ピアノだけのメロディーは、夜会での演奏に比べたらずっとシンプルなもの。けれど、真夜中のこの空間には、飾らない音が心地よい。
ゆったりとしたメロディーの中、アリシアはステップを踏む。
しばらく踊っているうちに、ふと感じた。
(何だか……すごく踊りやすい)
イルヴィスもダンスは上手かったが、それとはまた違う。
イルヴィスはダンスの講師と同じように丁寧で模範的なものだった。それに対し、ロベルトは動きが自己流だが、上手くアリシアが動けるようにリードしてくれる。端的に言えば、踊り慣れている人の動きだ。
(これだけスムーズに踊れると、まるでダンスが得意になった気分ね。ちょっと……楽しい)
相手は苦手意識のあるロベルトだが、そんなことはどうでもよくなるくらいに踊るのが楽しい。