第一王子に、転生令嬢のハーブティーを
「夢、か」
額からはじんわり汗が滲み出ている。アリシアは自分の両手を見る。何度か握って開いてを繰り返し、深く息を吐いた。
夢だったはずなのに、この手でニーナの首を絞めていた感覚が残っているような気がする。
それより、あの夢の内容には覚えがあった。
(あれは確か……漫画の、アリシアが最後に出てきた巻の話だわ)
記憶をたどり一人うなずく。
あの後、デュランが怒って止めようとするが、アリシアはそれに逆上。手が付けられなくなったところで、いつの間にか近くにいたイルヴィスが、静かにアリシアの手をつかみ、彼女の暴走を止めた……という展開だった気がする。
(で、何だかんだあって婚約破棄)
まあ、王宮で働くメイドを目障りだという理由で殺そうとまでするような女をイルヴィスが妃に望むはずはないから当たり前だ。そしてアリシアは国の外れへ追いやられる。
漫画の読者だった前世は、怖いアリシアがいなくなって安心したが、今世では追い出される側である。
「ああもう……嫌な夢だわ」
ため息をつきながらふかふかの枕に顔をうずめたのとほぼ同時に、扉をノックされた。
「はい」
「失礼いたします。おはようございます、お嬢様」