第一王子に、転生令嬢のハーブティーを


 度々話しこんでいる姿は、既に多くの人に目撃されているはずである。



「はあ……」


「お嬢様、ため息をつかれては幸せが逃げますよ」


「……」



 ため息じゃない深呼吸だ、と返そうかと思ったが、何となく口を開く気になれず黙った。

 それがまたノアの心配を助長させてしまったらしく、彼女の眉がぐっと下がった。



(しまった。下手に心配かけたいわけじゃなかったのに)



 急いで取り繕ってみても、わざとらしく見えるだろうか。



 そんなことを考えて、ふと思う。

 そもそも、何故自分はヒロインの存在にここまで怯えなくてはならないのだ。まだ何かが起こったわけでもないのに。


 アリシア・リアンノーズほどの人間が、起こると決まったわけでもないことに必要以上に悩み、周囲に心配をかけることなど果たしてあって良いのか。

 自問の末出した答えを、はっきりとした声で呟いた。



「良いわけ、ないわよね」



 アリシアは、パタンと音を立てて辞典を閉じた。


 軽く自分の頬を叩いてから立ち上がる。



「ノア、そろそろ王宮へ行く準備をするわよ。今日は久しぶりにシンプルなミントティーを淹れようと思うの」


「お嬢様……!」


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