第一王子に、転生令嬢のハーブティーを



 ニーナには、物心ついた頃から前世の記憶があった。


 前世は、日本に住む、仁奈(にな)という名前のごく普通のOL。

 いや、ごく普通のと言うには少し語弊があるだろうか。仁奈が勤めていた会社は、いわゆるブラック企業だった。


 異常に長い残業。終電もなく、会社に泊まり込むような日もあった。その上残業代が支払われないこともしばしば。

 休日など無いに等しく、有給など夢のまた夢。

 そして横行するパワハラやモラハラ。いったい何度「無能」と言われただろうか。


 しかし辞めることも叶わず、仁奈は体力・精神共にボロボロだった。


 ──それでも、たった一つだけ楽しみがあった。


 『黒髪メイドの恋愛事情』というタイトルの少女漫画を読むこと。

 学生時代に追いかけていた漫画で、完結した後も数えきれないほど読み返した。もちろん、特別読み切りの後日談までしっかりチェックしている。


 人々に気味悪がられる黒髪を持った平民の主人公が、高い能力を買われ王宮勤めのメイドになる。そこで第三王子と恋に落ちるが、そこにはたくさんの障害が──という、ファンタジー少女漫画としては割と王道のストーリー。


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