第一王子に、転生令嬢のハーブティーを
ヒロインは作中、多くの嫌がらせを受けるが、元から頭が良い彼女は、数々の困難を上手く切り抜けていく。その様子は見ているとスカッとして、面白かった。ヒロインの名前が自分とよく似た響きであるのも嬉しかった。
仁奈としての人生最後の日。その日は、珍しく終電よりも2時間ほど早く仕事が終わった。
いつも通り気力を使い果たしてヘトヘトだったが、漫画を読む時間ができたことが嬉しかった。
しかし、その帰り道のこと。
通り慣れた道を歩いていると、突然の目眩に襲われた。それも、立っていることすらままならないような強いものだった。
たまらずその場に倒れ込む。そこは横断歩道のど真ん中だった。
赤に変わる信号。早く立たなくては。そう思うのに体が動かない。
その場所は街灯の少ない通りで暗く、さらには普段から人通りが少なかった。仁奈に気がつく人はいない。
──もういいや。
目を閉じてそんな風に思ったのと、大型トラックの眩い光で視界が占領されたのはほぼ同時だった。
それが前世で最後に見た光景。享年25。死に際に受けたはずの痛みの記憶がないのは幸いである。